乳牛のライフサイクル
乳牛の体と性格&行動
反芻と牛乳ができる仕組み
乳牛のライフサイクル

 乳牛も人間と同じように、成長し、出産(乳牛では「分娩(ぶんべん)」という)した後からでないと乳(牛乳)を出してくれません。

 まだ成長段階にある小さい牛を「育成牛(いくせいぎゅう)」と呼び、正確には離乳(りにゅう)してから最初に分娩するまで期間を指します。育成の期間は、大抵22〜25ヶ月(2年前後)です。

 分娩した後には泌乳(ひにゅう)(乳を出すこと)する期間が10〜12ヶ月ほどあり、その後に泌乳を休む期間が約2ヶ月あります(これを「乾乳(かんにゅう)」という)。そして次の分娩&泌乳を迎え、このサイクルが繰り返されていきます。

 出産を終えた後の乳牛を「経産牛(けいさんぎゅう)」、とくに1産目ならば「初産牛(しょさんぎゅう)」と呼んでいます。
人工授精と妊娠

 乳牛を妊娠させるための授精は、人間による人工授精(AI・右写真)で行われています。

 牛の妊娠期間は約10ヵ月(280日)です。分娩から次の分娩までの期間は約12〜15ヶ月位ですから、人工授精は分娩して泌乳している最中にあたる2〜4ヶ月後の頃に行われます。

 人工授精によって乳牛は必ずしも妊娠するとは限りません。受胎に失敗すると人工授精が何度か繰り返されることになります。そして妊娠が確認されると、最終の授精日から計算して次の分娩予定日が定まることになります。
出産

 多くの農場では、そろそろ分娩が近い牛(乾乳牛)をまとめて飼っています。

 乳牛は大抵破水してから30〜60分で分娩します。その多くは見守るだけか軽い介助をする程度ですみますが、ときには難産をすることもあります。
哺育

 産まれてからすぐに子牛は、子牛専用の小屋(カーフハッチなど)で育てられます。産まれてからしばらくの期間は、主に牛乳を与えて育てます(哺乳)。

 特に分娩したばかりの母牛から搾られる牛乳は「初乳(しょにゅう)」と呼び、生まれたばかりの子牛にとっては特別な意味があります。それは消化しやすいタンパク質やビタミンなどがたっぷり含まれるだけでなく、病気にかからないための免疫成分も入っているためです。
育成

 生後2ヵ月くらいで子牛は離乳します。

 最初の人工授精は約15〜18ヵ月齢で行われますが、それまでの期間は人間にすれば小中学校生あたり、著しい成長をします。
搾乳

 分娩をすませると、今度は母牛として産乳をします。大半の乳牛は分娩してから約300日間、牛乳を出し続けます。

 一日分の乳量は出産してから1〜2ヵ月あたりが一番多く、その後少しずつ減っていく傾向にあります(右図:泌乳曲線という)。
乾乳

 搾乳をはじめてから約300日経つと、次の分娩に備えて搾乳を一時中止して、約2ヵ月の休みに入ります。この時期の牛は乾乳牛と呼びます。もちろん次の分娩のためですから、妊娠している乳牛です。

 乾乳期間中は、搾乳中とは違って乾草などをメインとしたエサメニューとなります。牛乳を生産していないとはいえ、お腹の中の胎児は日々急激に成長している時期にあたりますので、それに見合う栄養の提供とともに、きれいな牛体で、乾いて安楽な寝床を提供してやることは搾乳期間中と同様に大切です。

斑紋(はんもん):ホルスタイン種の白黒の模様。人間の指紋と同じように牛ごとに違っていて、生まれた時の斑紋は成牛(せいぎゅう)になっても変わりません。

蹄(てい)(ひづめとも呼ぶ):牛は中指と薬指が進化した2つの蹄があります。1ヵ月で数cm伸びるので、1年に2回くらい削蹄(さくてい)(爪を切ること)を専門の人(削蹄士)が行います。

歯:牛には上の歯がありません。もし噛まれても痛くありませんが、舌にはかなり強い力があります。

耳標(じひょう)

 日本中の牛には番号が書かれたイアリング(耳標)がついています。これに記載された10桁の番号で個体識別ができるように全ての牛に違う番号がついています。

飲水量:乳牛はメチャクチャ水を飲みます。その量たるや搾乳牛で1日約100リットルにもなります。

採食量:乳牛の食う量も半端ではありません。その量は体の大きさや乳量、エサの組み合わせなどによって異なりますが、サイレージなら一日20kg位は軽く平らげます。

糞と尿:糞は1日約30〜50kg、尿は約15〜25kgです。それぞれの乳牛が飲み食いする量によって違ってきます。
性格

 乳牛は草食動物です。基本的には攻撃性をもたない温順な動物です。しかしながら扱う人によって大いに変わってきます。

 人間を見かけた乳牛が、「逃げるあるいは逃げようとする、座っていても急いで立ち上がる、しきりに人の行動に注意を払い続ける」といった警戒モードにあれば、乳牛の扱い方としてはNGです。

 乳牛とは優しく接するのが基本です。ただおとなしいといえ図体の大きな動物ですから、扱う側が怪我をしないように、主従関係はきちんと保ちながら乳牛とつきあいましょう。
睡眠

 草食動物は肉食動物の標的です。そのため乳牛は人間や肉食動物のように深くて長い眠りをとることはありません。

 乳牛が深い眠りをとるのは1日数回、ごく短時間です。そのかわりいつでも起きて行動に移せるような浅い眠りを長めにとります。

 人間が乳牛にとって怖いと思わせる存在であることは、牛の安楽な気持ちをおおいに阻害しますので、優しく接しなければならない理由はここにもあります。
気温への適応力

 乳牛は胃袋で食べたエサを発酵させていますので、その発酵熱があります。これは体内にカイロを持っているようなもので、この熱のおかげで低温に対する適応力は高まります。とはいっても、体の汚れや濡れ、冷たい風に直接さらされるといった寒さ感を厳しくする状況を許容するものではありません。

 「乳牛は寒さに強い」という人がいますがこの表現は誤りです。恒温動物は体熱を奪われると寒さを感じます。乳牛とてその例外にはありません。

 育成牛や乾乳牛の場合、搾乳牛と比べるとこの体内からの熱量は格段に少なくなります。そのため搾乳していないとはいえ、こうした牛の体や寝床・生活環境が汚れているのは好ましくありません。

 体内のカイロは、逆に高温に対して弱いことにもつながります。概ね気温が25度以上あれば、乳牛は十分に暑熱ストレスを受けています。換気扇で風を送ってやる、日陰などを提供する、エサのやり方や内容を変えるといった対処が求められるようになります。


 乳牛のお腹の大半(約4分の3)は胃袋で占められ、その胃袋も4つあります。一番大きな胃袋は最初の第1胃(別名ルーメン)といわれるもので、容積はドラム缶ほどもあります。

 第1胃は通常の消化器官としての胃袋とは異なり、発酵タンクのような存在です。エサが第1胃に収まると、ここに生息する無数の微生物によって分解されます。この微生物にはセンイ(草)をも分解する力があるので、エサを発酵させながら増殖していきます。

 どんどんと増えた微生物は、第1胃からオーバーフローし、第4胃以降で消化されて乳牛に栄養をもたらせます。つまり乳牛は草を食って直接栄養にできるわけではなく、増殖した微生物を消化吸収して栄養源としています。このように自分の体の中に発酵工場を持っているのが牛の胃の特徴で、これはヤギや羊、さらにはキリンやラクダといった草食動物も同様です。
反芻(はんすう)

 乳牛はときどき食べたものを口にもどし、噛み返して、また胃にもどしています。これは反芻といわれるものです。

 1日の反芻時間は6〜10時間にもなり、1回あたりでは60回ほど噛み返します。反芻により、胃の中の微生物の働きを活発にして消化を助ける働きをします。
乳房

 乳房は牛乳作る大事な器官です。
 その構造は、乳房内に動脈を通じて運び込まれた血液は、微細に枝分かれしてゆきます(毛細血管)。そのたどり着く先は乳腺細胞とよばれるところで、ここで牛乳をつくるのに必要な栄養分を血液から供給します。

 この牛乳を作っている乳腺細胞は、ぶどうのひとつひとつの粒のようなもので、乳房内には膨大に存在します。

 乳牛は1kgの牛乳を作るため、約500リットルもの血液の循環が乳房内に必要とされるので、1日45kgの牛乳を出す牛ならば、乳房の中を通る血液の量は実に22トンほどにもなります。この血液に栄養を供給しているメインとなっているのが飼料(エサ)です。

 ・・・乳牛は食って飲んで寝ているだけのような動物に見えても、実はとても働き者なのです。